【PANTERA解説】:暴力と知性の融合した哲学する獣
アメリカのメタル界に革命をもたらした伝説的バンド、パンテラ。その音楽性は、圧倒的な攻撃性と縦横無尽なグルーヴの融合に尽きます。彼らのサウンドは、単なる怒りの発露だけではなく、緻密な構造と人間の感情を解剖するかのような鋭利的な視点にあります。
音楽の世界には、時代を超えて愛される名曲が数多く存在します。しかし、「どの曲から聴けばいいのか?」「アーティストの代表曲は?」と迷うこともあるでしょう。そんなあなたのために、パンテラの中でも特に胸に刺さる7曲を、独断と偏見によるカウントダウン形式でご紹介します!初心者でも楽しめる決定版プレイリストをお届けします!
OVERVIEW of the BAND

アンセルモの加入とグルーヴメタル確立
パンテラは、1981年にテキサス州で結成されたアメリカの伝説的ヘヴィメタルバンドです。当初はグラムメタル寄りのサウンドを展開していましたが、1987年にボーカリストとしてフィル・アンセルモが加入したことでバンドは大きく変革し、グルーヴメタルという新たなサウンドを確立しました。1990年にリリースした「Cowboys From Hell」により、一躍メタルシーンの最前線へと躍り出ることになります。
栄光から解散へ、そして奇跡の再結成へ
その後も1992年「Vulgar Display of Power」、1994年「Far Beyond Driven」と、メタル史に残る傑作の数々を発表しつつも、2003年に正式に解散します。最大の要因はフィル・アンセルモの薬物依存症で、人間関係が悪化したことによりました。
解散した後、メンバーはそれぞれの新たな道を歩むこととなります。2004年にはダイムバッグ・ダレルが観客に射殺され、兄であるヴィニー・ポールも亡くなり、オリジナルでのメンバー再結成の望みは絶たれたものの、2022年に再結成しました。

BAND INFORMATION PANTERA
- 【ジャンル】グルーヴメタル、スラッシュメタル
- 【出身】アメリカ・テキサス州ダラス
- 【活動期間】1981年〜2003年、2022年
- 【バンド・メンバー】
- Philip Anselmo(Vo)
- Dimebag Darrell(Gt)→ Zakk Wylde(Gt)
- Vinnie Paul(Dr)→ Charlie Benante(Dr)
- Rex Brown(Ba)
- 【ALBUM DISCOGRAPHY】Philip Anselmo加入時より
- Cowboys from Hell(1990)
- Vulgar Display of Power(1992)
- Far Beyond Driven(1994)
- The Great Southern Trendkill(1996)
- Reinventing the Steel(2000)
BEST 7 RANKINGS

第7位:Floods
ダイムバッグ・ダレルの哀愁漂う美しいギターソロが際立つ楽曲。それは史上最も美しく最も哀しいギターソロであり、その破壊の末路には全てが死に絶えた後の、静寂を表しているかのようです。
第6位:Revolution Is My Name
イントロから始まる暗黒にうごめく混沌としたギター、そしてダイムの超攻撃リフとメロディアスな展開が絡み合う印象的な楽曲。比較的聴きやすいが、圧倒的なヘヴィネスは健在。
第5位:I’m Broken
イントロのリフの破壊力は驚異的で凄まじく、まるで脳髄に焼き印を押すがごとく刻まれます。アンセルモの歌声は絶望と怒りが交錯し、そのままバンドの象徴である痛みや狂気を音に変換したような一曲です。
第4位:Cemetery Gates
美しい哀愁をたたえたイントロから始まり、感情的なギターソロと壮大な雰囲気を持つメタルバラードです。ダイムバッグの血涙のようなギターと、アンセルモの魂を絞り出すようなシャウトの激しい競演は、傷心を思わせる慟哭をリアルに表現しています。
第3位:Walk
シンプルながらも強烈なインパクトを持つギターリフが、世界中のメタルヘッドを狂わせます。その圧倒的な存在感はPANTERAを代表する曲であり、ライブでの人気も絶大のメタルアンセムです。
第2位:Cowboys from Hell
PANTERAの代表曲の1つ。バンドの転機ともなった珠玉の名曲で、グルーヴメタルを確立した象徴的な楽曲。イントロのギターリフは、メタル史に残るインパクトを持ち、この曲がバンドを一躍有名にしたと言っても過言ではないでしょう。
第1位:Mouth for War
開始まもなくして襲い掛かるギターリフから聴く者を圧倒し、また後半からの速い展開もまた強烈な衝撃です。まさにメタルの怒りやエネルギーを見事に体現したグルーヴメタルの真骨頂で、この曲を聴かずしてPANTAERAを語ることは許されません。
BEST ALBUM 3

Cowboys from Hell (1990)
PANTERAが世界にその名を轟かせたアルバム。それまでのグラムメタルを基調としていた要素を完全に捨て去り、スラッシュメタルの攻撃性と重く激しくタイトなグルーヴを融合させる、従来のメタルとは一線を画す独自のスタイルを確立します。まさにその到達点がこの作品で、グルーヴメタルを確立する契機になりました。
Primal Concrete Sledge
ドラムの強烈なタイトで重いグルーヴ、切れのあるギターリフが絡み合う、超攻撃的な楽曲です。1曲目のCowboys from Hellからの完璧なる流れの引継ぎであり、単にその引き立てだけにとどまらない強烈な一撃です。
Domination
ライブでは常に盛り上がる定番曲で、イントロのリフはまるで地獄の門を開くようで、重低音ギターリフと驚異的なブレイクダウン(スローダウンして超ヘヴィになるパート)が強烈に聴く者を圧倒します。バンドの攻撃性とグルーヴ感が見事に調和した楽曲です。
Vulgar Display of Power (1992)
「暴力的な力の露骨なまでの誇示」・・・力を持つ者はそれをどう誇示するのか?本作のテーマを象徴する、PANTERAの投げかけた哲学的命題です。無駄な装飾を排し、リズムとグルーヴのみで聴き手の肉体を支配するような、この作品は「減算の美学」とも言えます。
Fucking Hostile
スラッシュメタルの影響の強い、暴走する猟奇的な一曲。リスナーの鼓膜を突き破るように突撃する破壊力はまさに、暴力の象徴と言えるでしょう。
This Love
破壊的な愛の形。美しい叙情的なイントロから始まりながらも、少しずつ攻撃的な展開へと移行し、最終的には狂気が愛を染めていきます。アンセルモの感情的なボーカルは、「愛」に潜む痛みや怒り、悲しみを内包する異色のラブソングです。
Far Beyond Driven (1994)
メタルをさらに重く、さらに過激にするという試みの、その到達点ともいえる作品。「史上最もヘヴィなチャート1位アルバム」とも称される、徹底的にヘヴィで過激な内容になっています。まさに、メタルバンドとしての地位を不動のものとしたアルバムです。
Strength Beyond Strength
「Far Beyond Driven」のオープニングを飾るにふさわしい最も暴力的な楽曲の一つ。スラッシュメタルにも匹敵するスピード感、途中でテンポダウンする部分からの重厚なグルーヴ、そしてアンセルモの極限まで怒りを込めたシャウト、聴いた瞬間からその破壊的なエネルギーに全ては蹂躙されるでしょう。
5 Minutes Alone
人間の暴力性の根源は何かと問いかける楽曲。他者への攻撃衝動は、私たちの内側に潜んでいると、それを音楽として表現しています。怒りの全てを叩きつけたような、ヘヴィネスの塊のような楽曲。
Becomig
ダイムバッグ・ダレルのスクリーミングするようなリフは、稀代のリフメイカーの面目躍如といったところでしょうか。ドラムとギターのグルーヴは完璧なシンクロを見せ、まるで巨大な装甲車が迫り来るかのような圧力を生み出しています。
HIDDEN MASTERPIECE

The Great Southern Trendkill(1996)
前作を上回る最も過激で、最も暗く、そして最も攻撃的なアルバム。タイトルの名が示す通り、「商業主義への反発」「自己破壊の欲望」「内面の闇」といったテーマを、純粋な怒りと狂気をサウンドにそのまま落とし込んだような作品です。そこにはただひたすらに、果てない混沌が続き、暗黒の奥底へとどこまでも導かれるようです。
The Great Southern Trendkill
タイトル曲にして、凶暴なオープニグトラックです。出だしからの超絶ブラストビートと、感情が爆発したような狂気の咆哮が炸裂します。また、途中からスローダウンし、パンテラならではのグルーヴが、狂気をさらに混沌へと誘います。
10’s
このアルバムの中で最も哀愁を帯びた楽曲で、アンセルモのドラッグ依存の深刻化を象徴するかのような楽曲です。囁くような内省的なはじまりから、自傷行為さえ思わせる狂気へと変貌していく、限りない闇の深さを堪能できます。
Living Through Me(Hell’s Wrath)
暴虐ギターリフが強烈なテンションを持ちながら襲い掛かる展開から、狂うようなアンセルモの叫び、無慈悲なほどタイトなドラムが融合し、聴く者を圧倒します。
OTHER WORKS

DOWN
PANTERAのボーカリストである、フィル・アンセルモが中心となり1991年に結成、PANTERAとは異なるダークでヘヴィな世界観を展開しました。その音楽性はPANTERAの攻撃性よりも、BLACK SABBATHのようなヘヴィなグルーヴ、サザンロックのブルージーな哀愁、そしてスラッジメタルのドロドロとした泥臭さを融合させたサウンドが特徴です。
Stone the Crow
1stアルバム「NOLA」収録。DOWNの代表曲とも言える、スローでヘヴィなバラードです。フィル・アンセルモはPANTERAよりも落ち着き、より深みを増した歌唱が際立ちます。
DAMAGEPLAN
PANTERA解散後に、ダイムバッグ・ダレルとヴィニー・ポールは新たなプロジェクトを結成します。パンテラの攻撃性やヘヴィさを引き継ぎつつ、よりモダンなグルーヴを取り入れました。
Pride
パンテラの遺伝子を色濃く受け継ぎ、DAMAGEPLANの方向性を決定づける一曲。破壊的なギターリフと、よりモダンなグルーヴ、クリーンボーカルを織り交ぜたメロディアスな楽曲。
CONCLUSION
PANTERAの楽曲は、その圧倒的なパワーと深い感情表現でメタル界を席巻しました。その魅力は、単に攻撃性だけでなく叙情性やドラマ性を併せ持つ彼らの音楽は、「暴力」「怒り」「絶望」という人間の根源的な感情を芸術として昇華したものでしょう。今回紹介した楽曲をきっかけに、もう一度彼らのその深い魅力に触れてみてください。
これからも音楽レビューを通じて、さまざまな作品に触れることで、自分自身が作る楽曲にも新たな一面が反映できればと思っています。興味があればぜひ覗いてみていただけると幸いです。
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